相続人の資格シリーズ46以降

ホーム  »  相続人の資格シリーズ46以降

相続人の資格46

服部は言いました 先生それは言いすぎです お二人とていずれはお嫁様に行くわけですし 古美門はいいました 現実的ではありませんね 女30すぎて 高学歴 色気なし 発育不良 職業弁護士 結婚のチャンスがあるとでも もっとも黛については入れあげた男がいましたね いまごろどこを放浪してるのやら そういえば富樫の愛人という手がありましたね 若いだけで稼ぎのない男と結婚するより 日本を代表するフィクサーのそばめの方が今の黛には賢明な選択です 服部はいいました 富樫は早くに奥様をなくしております 古見門はいいました そうですか もし富樫の妻になれるなら あの朝ドラパパも安泰です 50の年齢差なんてなんですか 愛があればラサール加藤です 古見門の大声に反応するようにある部屋の窓があいた 黛が顔を出した 話かけようとする古見門を無視して窓をしめた 楽子は言いました どうしたの 真知子 黛は言いました でかいゴキブリがいたの 楽子はいいました ここから見えるってどんなゴキブリよ 黛は言いました 東京を飲み込むほどの大ゴキブリよ

相続人の資格47

古美門はいいました 帰りましょう  二人は車に戻りました 古美門は言いました こまったな 兵隊がないのは 服部は言いました 磯貝さんにお願いしたら 古美門はいいました 小鳥遊にあやつられちゃいますよ 敵の敵は味方というじゃないですか 接触してみるかな 服部は言いました 美男のユダですか 古美門はいいました いや 慇懃無礼なキリストのほうです 服部はいいました しかしあの方は 古美門はいいました 自由のきかない身です しかしじき開放されます 服部はいいました それは権力者だから 古美門はいいました そうじゃなくて 京極事務所の証拠収集に違法性が強すぎます まず大嶺が殺害の動機とみなされる不正経理ですが その帳簿は被害者の所有物です 警察が間違えて払い渡したロッカーのキーはスポーツジムのものですが被害者に占有があります 死者の占有を法律は認めます それを所持していた被告人は占有離脱物横領です その事実を知りながら証拠収集に使ったわけですから それで手に入れた裏帳簿は違法収集証拠ですから 大嶺の殺意の状況証拠として裁判所は採用するのに躊躇するでしょう

相続人の資格48

しかしそれだけではありません 現在法が認める殺人教唆のパターンは二つです 一つは殺意を発生させたこと もう一つは殺意を強化したことです この二つがみとめられなければ殺人を指令しても殺人教唆にはみとめられににくいのです 服部は言いました しかし証拠のドライブレコーダーには その決意をさせた様子が残ってるようです 古美門は言いました きの利いた弁護士なら もともと大嶺には被害者を殺害する強い決意があったと つまり天馬の教唆は認められないという論法です 客観的に殺意を抱く条件は 大嶺のほうにあります 大嶺の殺意がすでに確定的なものであれば 天馬のアドバイスは大嶺の殺意になんの影響も与えてないという事になり 天馬の責任の追及は困難をきわめます 服部は言いました しかしそれは検察が黙っていないでしょう 古美門はいいました もちろんそうです 検察はドライブレコーダーを証拠に大嶺の殺意を決定させたのは天馬の助言の効果だとドライブレコーダーを証拠に示すでしょ しかしあれだけでは大嶺の確定的殺意がなかったかどうかは立証できません というのは大嶺が天馬の権力にたよりたくて一芝居うったかもしれないからです 天馬に殺害指示を出させることで天馬をぬきさしならない状態に追い込む そうすれば天馬は自らをまもるためにありとあらゆる権力を使うでしょう 噂では検事総長を動かしたというじゃないですか

相続人の資格49

服部は言いました では先生は大嶺の切捨てが行われるとお考えですか 古美門は言いました そうなったら検察には打つ手がないでしょう 勝ち目がないとわかれば検察は大嶺の一本づりに替える しかしこれは大嶺の自白が大きく影響するはずです 服部は言いました その点ですが大嶺は自分だけが泥をかぶるでしょうか 古美門は言いました しかし実行犯に直接命令を下した大嶺が逃げるのは難しい 自分が逃げられないならせめて 服部は言いました お言葉ですが先生 天馬は自分と母親を捨てた男ですよ 古美門は言いました そこです服部さん 確かに天馬が大嶺母子を捨てた理由は世間的には身勝手きわまりない事だと思います しかし大嶺もご存知の通り野望の強い男です 人を踏み台にする事に割り切りがあるでしょう だから捨てられた自分や母親より父親のほうに理解があるわけです それに今度の事は巻き込んだという罪悪感があるわけです おかしな物で捨てられた子供ほど親との絆を求めたがるもんですよ

相続人の資格50

それに弁護士会の動きも天馬に有利に働くでしょう 服部は言いました 弁護士会は面子をつぶされたのでは 古美門は言いました 弁護士会はこの事件を検察のでっち上げという見解で一致するはずです 服部は言いました 会は天馬氏を擁護すると 古美門は言いました 確かに個人的には天馬に怒りを感じる弁護士は多いでしょう しかしその大悪党を選んだのは他ならぬ弁護士達です これを期に弁護士法の改正でも着手されたらたまりませんからね あくまでこの事件をあやふやにしようと動くはずです 服部は言いました 信用を回復するため切り捨てるのではないですか 古見門 残念ながらここまでの悪事を認めたら 組織改革などと言うラベルの張替えでは信用を回復することは不可能です もちろん天馬につながる幹部は失脚するでしょうが それと天馬の問題は話しは別だ もし認めれば前代未聞 現役弁護士会会長の殺人教唆ということになります 世界中からもの笑いです 弁護士会全体の利益を守るためには天馬は権力の餌食になった被害者にみせかける方が都合がいいのです そのへんは天馬の所属する第一の第二も同じでしょう

相続人の資格51

服部は言いました いいんでしょうか それで本当に 古美門は言いました いいわけありません しかしそれが現実です 検察もその辺は知ってますからね 落としどころを見るでしょうね しかしなんらかの責任はとらせるはずだ 現役の弁護士会会長を確保したわけですから何もなかったでは 証拠隠滅 幇助 いすれにしても罰金か それが許されなければ 不起訴か起訴猶予 あまりあまあまだと検察審査会も黙っていない 指定弁護士制度もありますし もっともその指定弁護士になってくれる人がいるかどうか 法曹界の超大物を敵にまわすわけですから へたをすると某宗教団体の時と同じになります あの時も弁護士になる人間がいなかった 服部はいいました あの女性の時と一緒ですな 古見門は言いました 安藤紀和ですか あの時はたたかれたな 服部は言いました 先生にもしその要請が来たらどうしますか 古見門は言いました 10億くれるなら考えないでもないか でもあの人なら あの人なら

相続人の資格相続人52

服部は言いました お父上ですか 古見門は言いました 頭が固いだけが長所の人ですから 服部は言いました いやそれはともかく お父上をほめたのをはじめてききました 古見門は言いました ほめてませんよ別に  服部は言いました でも今長所って 古見門は言いました えっそんな事いいました 覚えてないな 服部はいいました そうゆう事にしておきましょう ところで海東先生はお払い箱でしょうか 古見門は言いました そこが天馬のしたたかなところです 不起訴になろうと起訴猶予になろうと天馬のイメージはダーティーに染まった だから当分は黒子に徹するでしょう 服部は言いました それは海東先生を傀儡にするという事ですか 古見門はいいました 海東は裏切り者ですがクリーンなイメージですから 利用できる限り利用するでしょう そしてポイ捨てです 今天馬の娘はハーバードのロウースクールだそうです ま 時間の問題でしょう あわれな話だが昔の女になんか同情するから悪いんです 服部は言いました では恵子奥様の窮地も先生は無視なさるのですか 古美門はいいました 元です もちろんです もっとも向こうもそうでしょう いやアイツの事だ ここぞとばかりに私をつぶしに来るかも知れない

相続人の資格53

服部はいいました ところでわたくし思ったんですが先生が天馬氏に目をつけたなら先方もおなじことを考えるのではないでしょうか 古美門はいいました それは三木のことを言ってるんですか 小鳥遊が三木に接触すると それはないでしょう 私の所は兵隊がいないが 小鳥遊のところは足りている ものの役にもたちませんが 彼らに仕事を与えてやらなきゃならない とても共同でやるほどのうまみは 服部は言いました しかし三木先生はどうでしょうか 今までの行動から見て 例えば いじめ問題の時 はたまた御醤油の時 そしてパクリシンガーの問題 メリットのため三木事務所が首を突っ込んで来たとは言えませんね 古美門の脳裏に三木の声が聞こえて来た  お前は私のかげがえのないものを奪った 私は絶対にお前を許さない 私の大事なさおりさんを さおりさんを さおりさんを さおりさんを さおりさんを返せー 古美門は頭を抱えました

相続人の資格54

一方こちらは京極事務所 あいかわあらず現場100回の録画を見てくつろいでる翔子のところにホストが帰ってくる ねえさんただいま帰りました 翔子は言いました おかえり なんかわかった ホストは言いました いいえ 二郎兄さんがああなった理由については誰も知ってる人はいません 翔子は言いました そうかてごわいわね ホストは言いました しかしなんでこんな事きにするんですか 翔子は言いました 何かひっかかるのよね こういう勘を無視するとあとでかならず足をすくわれるのよ  今度は青島がかぇって来ました 翔子は言いました あれから二郎どうだった 青島は言いました 少し休ませてください 青島はソファーに倒れるように寝転びました  今度は京極達が帰ってきました 京極は言いました はー今日はつかれた 辞め検はいいました 年より二人を働かせて自分はくつろいでるのか どういう了見だ 京極は言いました まあまあ 管理人さんも長旅でおつかれですから ところで柴家のだいたいの不動産の登記書類をとって来ました 翔子は言いました ありがとう そこへおいて 翔子は書類に目をとうしました

相続人の資格55

翔子は声をあげました あれこれ 京極はいいました 管理人さん気がつかれましたか 翔子はいいました ここグランドプリンスホテルの近くよね そこにこれだけ広大な土地 資産評価やりなおしたほうが 京極はいいました そうでなくて乙区をみてください なんですぐ表題部をみるんですか 翔子いいました 女の習性よ あれ抵当権がついてる あれこの根抵当権 京極は言いました 確かに債務との付従性に問題ありですよね 翔子は言いました この登記無効の恐れがあるわ 青島が起きてきました 僕にも見せてください あれ これ身元保証法違反じゃ 京極は言いました 身元保証という言葉は使ってないんだよね 翔子はいいました でもこれ実態は身元保証よね やめ検がいいました 私現職の時 結構無効と思える登記見たことありますよ しかし当事者が問題にしなければけっこうとおちゃってるものなんですよ 今事例となってるものも 登記前ではなく 登記後の解釈があらそわれたケースもかなりあります  翔子は言いました ところでこの女性誰 親類の人 京極は言いました 管理人さん 何考えてるんですか 翔子は言いました 親類なら身元保証人になるはずよね あえてめんどくさいことをしたのは 家族に知られたくないから 京極は言いました そうか身元保証は相手が確認の通知を送ってくるから 家族にばれる 青島は言いました でも抵当権は登記されますよね 翔子は言いました しかし普通の人は登記を見ても乙区は見ないわよね やめ検はいいました  それに物上保証なら人的保証と違い 特別な人間関係を疑われにくい

相続人の資格相続人56

茅野はいいました つまりこの人は特別な人であり それを家族に知らられたくないと そして女性であると 翔子は意地悪そうに笑いました ホスト 法律はダメだけど そっちの方面の勘は鋭いわよね 青島が言いました えっどういうことですか 翔子はいいました あきれたポチ あんたいくつ 青島が言いました えー30どうでもいいじゃないですか そんな事 やめ検が言いました ポチ君童貞 青島は言いました 何を言い出すんですか 翔子は言いました ポチに説明するのが面倒なのではっきりいいますけどね 芝義雄の愛人の可能性があります 青島が叫びました えっそうなんですか 翔子が叫びました 誰かこいつを放り出して いや殺して 話が進まないよう 京極は言いました まま管理人さん 隠し子という可能性もありますし 翔子は言いました それが一番厄介ね 茅野が言いました なんでその方が厄介なんです 青島が言いました 茅野君 相続というのは全員野球なんだよ だから やめ検は笑いながら言いました お前ら二人でやっと一人前だな

相続人の資格57

一方こちらは古美門邸 珍しく激昂した古美門が電話に対して怒鳴っている だからね いいわけされても困るわけ こういう事があるから興信所でなくておたくに頼んだわけでしょ すぐとってもすぐ連絡くれなきゃ 意味ないでしょ 服部が聞きました どうなされました 古美門は言いました あんたそれでも司法書士か もういいよ 古美門はガチャンと電話を置きました 古美門はfaxを見せて言いました これ見て下さい 服部は言いました  おおこれは 古美門は言いました   でしょ  服部は言いました ここはグランドプリンスホテルの近くですな ここに柴家は土地をこんなに持ってるんですか 確かここは坪単価が 古美門は言いました そっちの話ですか 古美門は奪うようにfaxをとりかえして言いました 説明は省きますが 被相続人には愛人か 隠し子がいた可能性が濃厚ですいずれにしても厄介だ 服部は言いました と申しますと 古美門は言いました 別の遺言書が出てくる可能性が大きい 愛人ならまだいいがこの女性が隠し子だった場合 この女性の行動しだいで遺産分割に影響を及ぼします いずれにしても事情をおさえるためにこの女性をこちらで確保しなければ こうしてはいられない すぐ蘭丸君を あーだめか 服部は言いました まだ無理でしょう 古美門は言いました くそ兵隊がいない 余剰人員の多いあの女の所はもう動いているだろうに 服部は言いました 興信所に依頼しましょう 古美門は首を振りました 興信所の守秘義務なんてあてにならない こんな危険な情報は共有できません 服部は言いました それは困りましたね いっそ三木事務所に協力を求めてみたら

相続人の資格58

古美門は言いました 三木の所にですか 服部は言いました 先生お気持ちはわかりますが 三木先生のところも昨今は人員過剰と聞き及びます このさい協力を要請してみたらいかがでしょう すぐれた政治家は敵とも手を結ぶといいますし 古美門は言いました 服部さん 三木と私の関係は政治問題ではなく宗教問題です 服部は言いました これはおみそれいたしました 古美門先生が特定の宗教観をおもちだとは 古美門は言いました そうじゃなくて 地獄ですよ 三木と私が一緒に仕事をするのは二人にとって無間地獄です 服部は言いました はあ       夕刻 三木がスナックで楽しんでいる 同じテーブルに沢地と井出がいる 井出はかなり泥酔している 三木はステージで歌を歌っている 私の大事なさおりさん あなたがいなけりゃ生きられぬ   井出が沢地にからんでいる ヒック ねえ さおりさん てだれでしたっけ 沢地は言いました だめですよ そんなこと もし三木の耳にでも入ったら 三木が言った おい高円寺 井出が言った 井出です 三木が言った 君はうちの事務所に来て何年になる 井出が言った かれこれ15年です 三木が言った そうか君もそろそろ独立の時期だな 黛くんも独立したというし 井出は言った あいつは追い出されたんです 三木は言った そうかその方法があったか 君も出て行きたまえ しっし 井出は言いました そんな こんな不況時に追い出さないでください どうしましょう沢地さん しっかり耳に入ったようです 沢地は言いました そのようですね ご愁傷様です

相続人の資格59

夕方 薄暗くなる空を見ながら酒を飲む翔子 青島が入ってくる 青島は言った 管理人さん 帰らないんですか 翔子は言った ばかねここが私のうちじゃない 青島は言った そうでした じゃあ僕は 帰ろうとする青島だが振り向いていった 何か考え事ですか 翔子は言った だったらどうよ あんたに相談しろとでも 青島は言った いや 帰ります 翔子は言った 柴二郎の事を考えているのよ 青島は言った か 管理人さん タイプなんですか 翔子は言った まさか  なんで二郎がああなったかよ 青島は言った ああ幼い二郎に何かあったんですかね  翔子は言った 子供の個性がかわるのは 自分になにかじゃなくて 親や家庭に何かあった時なのよ 青島は言った そういえば管理人さんのお父さんも いや失言でした 翔子は言った いいわよ隠すつもりはないから でも私は変わったつもりはないわよ 青島は言った え 前からこの個性なんですか 翔子は言った 何よ批判するつもり ポチの分際で

相続人の資格60

古美門は届いたファックスを見ている 服部はきいた なんでしょうかどんどん出て来ますが 古美門は言った 最近個人情報の保護が厳しく民事は苦労します 服部は言った これは大勢でうつった旅行の記念写真ですね 各弁護士会が古い弁護士名簿の提出に応じてくれにないいんですよ 各弁護士会の慰安旅行の写真です 古参の弁護士に頼みこんで かなり苦労しました 服部は言いました 先生は諸先生に評判よろしくありまあせんからね 貸せばどんな悪用されるかと これは失言でした 古美門は言いました こんな時あのジジ殺しがいると役に立つんだが 服部はものまねでもするように言いました 先生そこをなんとか 古美門は言いました それは今あいつの相棒の十八番です  うっこれかな  いや違う まずはげと言う先入観を捨てなきゃ えーどんな顔だっけ 服部は言いました 柴義雄さんの顔ですか 遺影はピンボケでしたからね なんでも息子の二郎さんがケータイで撮った写真らしいです 古美門は言いました なんでそんな写真を遺影に 服部は言いました いい写真がなかったそうです 写真を撮ることを嫌っていたそうで

相続人の資格61

古美門は言いました ふーん頭ふるいんだな 魂でも吸い取られますか 服部は言いました それでも先生なんとか借りて来ました さすが服部さん でもどこから 服部は言いました 義雄さんが理事を務めた農協からです 古美門は写真を受け取りました 古美門は最初写真をぴらぴらしながら見ていた 服部は言った 先生借り物ですから丁寧に 古美門はいいました 失敬失敬 古美門はしっかり写真の両端を両手で持った しかし突然その両手その写真を引っ張るようにして見入った 服部はあわてた 先生破れます 貴重な写真ですから 古美門は分かったと片手で合図して 片方の手で写真を支えた しかしその手はブルブル震えていました 服部は聞きました まさかお知り合いですか 古美門は言いました この人は土下座さん 土下座おじさん まさかこの人が柴義雄だと言うのか 服部は言いました 土下座おじさん 古美門は言いました 九州にある私の生家に ある時期になるとおかしな人が来訪してくるのです 正確に言うと来訪ではありません 門の中に入ってこないのです 服部は言いました それは大先生が門前払いすると 古美門は言いました 入ってこられないのではなく入ってこないのです 服部は言いました よく意味がわかりません まさかその人はそこで 古美門は大きく頷きました 私がはじめて土下座さんにあったのははっきり記憶にありませんがかなり幼かったと思います 正確に言うとあったというより遭遇したと言う表現が正しいかもしれません 服部は言いました 遭遇した 熊みたいにですか 古美門は言いました 幼い私にはその奇行の様は恐怖と言ってもおかしくないほどです

相続人の資格62

回想 まだあどけなさの残る古美門が自転車で家に帰ってくる ふとみると門の前当たりにハンチングの帽子をかぶった小さな男がたたずんでいる 古美門は怪訝に思うが声をかける度胸はなくぶつぶつ言っている 男も古美門に気がついてバツのわるそうな顔をする 男は何か考えているいるように門の前で小さく旋回する 古美門は意を決したように口を開く あの何か家に御用でしょうか 父を呼んでまいりましょうか 男はあわてて手を振った いえとんでもございません 失礼ですが古美門検事のご子息ですね 古美門は言った はい 父は検事の古美門です あなた様は そう言われて返答に困った男はしばらくだまりこくがいきなり 御免 と言うと膝を地面につけて門に向かって土下座する 思わずあとずさりする古美門 悲鳴のように父親を呼んだ  おとうさん ちょっと来てください 家の中から清蔵がゆったりと しかし急ぎ足で出てくる 清蔵は言った どうしたんですか健介くん ご近所迷惑ですよ 古美門は門の正面を指さした しかしもう誰もいない あれ いない 清蔵は言った なんですか ふと前方を見る古美門 男が全速力で逃げて行く後ろ姿が見える 古美門はそれを指さした あそこですおとうさん  清蔵は男の後ろ姿を見て表情を変える 眼鏡をポケットから出し確認すると苦そうな顔をして古美門に言った もう家に入りなさい 古美門は言った えっでも 清蔵は言った いいから 清蔵は古美門を押し戻すように自分も家に戻って行った

相続人の資格63

それからある時期になるとその人は必ず現れた 私が直接見たことも数回 すばしっこくてつかまらなかった また人から来たことを知らされることもあった いつの日かその周辺では知らないものがいないほど 私はそれについて父清蔵が何かを知っていることを薄々気づいていたが父はおとなしく私の質問に答えてくれるような人物ではなく 何よりもその頃の私は父に対し卑屈なほどのコンプレックスを感じていた時期だったのでその事についてあえて触れなかった 私は成長するにつれて何をやっても勝てない完璧な父清蔵に強迫観念的な圧迫感を感じていてそこから抜け出せなくなっていたのだ 私は父の忠実なロボットになりつつあった 私はいつの間にか自我を失い聞き分けのいい優等生になりつつあった   服部は言いました いつごろまでそれは続いたのですか まさか最近まで 古美門は言いました と言いますと 質問の意味が 服部は言いました 土下座する人の事です 他に何か 古美門は言いました そうですね ああ服部さん 私ちょっと出てきます 服部は言いました ではお車を 古美門は言いました いえ近所ですから 古美門は外へ出て行きました 服部は言いました これは逃げられましたな あまりあの親子の事には立ち入らない方が賢明のようです

相続人の資格64

古美門は屋敷より少し下がった場所にあるガレージの前に来た リモコンでガレージをあけた 大きなガレージには何台もの高級外車が止まっている 古美門はけだるそうにガレージ前の庭石に腰をおろして空を見上げた 胸元から柴義雄の写真を出して確かめる 古美門は言った 間違いない 古美門は柴家の帽子たてにかけてあったハンチング帽を思い出した 古美門は言った あの時どこかで見た帽子だと思ったんだ 古美門はスマホを出してアドレスを検索しようとした 古美門清蔵氏という表示を出して手を止めた 古美門はコマンドを出すボタンに手をかけたまま躊躇していた 再び古美門の回想とかわる    帰ってくる学生服の古美門 男が土下座する姿を遠目で見つける 古美門は乗っていた自転車を降りると近くに止めて鍵をかけ男の見えない方から塀を乗り換え敷地に入ろうとする ブロック塀の上に来た時古美門は呟いた なんで俺がここまでしなきゃならないんだ なんのきなしに上を見上げる古美門 せりだした2階のバルコニーの上で清蔵が門の前の男の方を見ている

相続人の資格相続人65

古美門の位置からは表情はわからないがその体から拒絶と嫌悪のようなものが感じ取れる その時古美門の横合いから一台の黒い自動車が入って来てハンチングの男の男の近くに止まる そして素早く二人の男が車から出てきてハンチングの男の両側に来る 古美門はびっくりして塀の上を小走りに走って前に出た ハンチングの男が叫んだ 何ですか君たちは 一人の男が何かをハンチングの男に見せて言った 常識というものを考えてください ハンチングの男はシュンとなり車の方に連行されて言った 清蔵はそれを見てもなんの驚きも見せず家の中に戻って行った 古美門は言った おとうさん まさかあなた 古美門は塀を飛び降りて自転車を走らせた しかしすぐ自動車に引き離されペダルを止めた 古美門は言った あれはきっと身分証明書だ この方向には所轄があるはず しかしなんで連行されていったんだ そんな悪人には見えないのに 待てよ あの時刑事は敬語を使っていた 連行する人間に何故敬語を 古美門はペダルを再び踏んだ

相続人の資格66

所轄のエントランス   相談係の署員を困惑させている古美門 相談係は言った いくら頼まれても公務で連行されたのだったら私らどうしようもないですよ 弁護士とかに相談してください 第一その人の名前もわからないなんて いったいあなた何 古美門は返答に困るが突然何かひらめく 古美門は言った 名前はわからないけど うちへ陳情に来たようなんですよ 署員 陳情ってあなた政治関係の人 署員は古美門の服装を見た 古美門は言った 父の私設秘書みたいなことをやってまして ちょっと見てこいと 署員は言った でお父さんの名前は 古美門は言った それは その時署員の上司のような男が署員を手招きして呼び寄せ小声で言った 公安が耳を立ててるかもしれない いいから刑事課で調べて来い 政治がらみで不手際があるとうちの署長の首までかかる 署員は驚いて言った はいすぐ 署員は大慌てでエレベーターに乗った 上司は御機嫌をとるように言った 喉乾きませんか 古美門は言った ジュース 自分で買いますから     同相談室   呆れた顔の刑事と古美門が小さい机で向かい合っている 刑事は言った 古美門検事正の息子さんですか 古美門は言った 嘘をついてすいません それよりいったいあの人が何をしたっていうんですか 僕にはそんな悪人には見えなかった 刑事は言った そんなこと私人の君に話す必要がありますか 違法逮捕ではない まギリギリのところだが 古美門は言った 父の要請なんですね 刑事は言った 確かに相談は受けたが出動するかしないかは我々が判断した 古美門は失望したように呟いた やはり父の

相続人資格67

刑事は言った  これは俺の意見だが あの人とあんたの御父上にはかなりこみいった事情があるんだよ お父さんに聞いてみなとつきはなしたいところだがそんなこと易々口に出す御仁じゃないからね もうすこし分別のつく年になったらたずねてきな 俺は刑事2課の大河内ってもんだ 古美門は名刺を渡された 巡査部長大河内けいたと階級と名前と連絡先だけ書いてある変わった名刺だった 古美門は名刺を読んだ 大河内ケータさん どこかで聞いたような 大河内は言った それはクロコーチだ               古美門は言った 大河内刑事 まだ定年前だよな 県警で調べれば 古美門はスマホのアドレス検索にクロコーチと入れた 大河内の名と連絡先が出た 古美門はそのままテルした 古美門は言った 現在使われてませんて 課の番号じゃないってこと いったいどこの番号 古美門は顔を屋敷の方に向けた バルコニーでは服部が観葉植物の害虫駆除のため重装備で薬を噴霧していた 古美門はガレージに入った マセラッティをはじめ高級外車が何台も並んでいる 古美門はそれらの車の前に行った 高級外車を見ながら古美門はためいきをついた 古美門は免許証を出した オートマ限定免許だった 古美門は外車の一台のドアに手をかけたが断念して首を大きく振った 古美門は高級外車の列の果てまで歩いて行った そこには高級外車の軽 ファイアット126が停めてあるがフロントにはしっかり若葉マーク 古美門は時計を見てから大声で叫んだ すいません服部さん 車出してください

相続人資格68

首都高速を走ってるマセラッティ 走るというより滑るように車の追い越しを続ける 運転席の服部は楽しそうに前車を追い越すたびにホイ ホイと声を上げる 古美門は腕時計をバックミラーに映すように上げ言った 〇時までに間に合いますかね 服部は言った お安い御用でございます 御実家にお戻りになるのですか 古美門は言った いや 実家に近くに用があるんです 服部は言った そんなことおっしゃらず たまにはお戻りになったらいかがですか 古美門は言った いや実家による必要はありません  古美門は外を見ている 回想    考えごとをしながら自転車を引っ張ってる古美門 目はうつろであり時々ため息をつき自転車を止める そんな事を繰り返しながらあてどもなく歩く古美門         時間がいくらか経過     自転車を止めて近くの植え込みの淵に座る古美門 ふと顔を上げる 古美門は言った あれここどこだろう まわりを見回す古美門 周囲の雰囲気繁華街の裏通りのような感じである 少し離れた場所で金髪のヤンキー達が座って煙草をふかしてだべっている  また一方の電信柱の下ではいかにも商売女風の女性がコンパクトで化粧を直している すこしびびってしまった古美門まるで何かから逃げるようにこっそり自転車を引き大通りと思われる方に歩き出す 電信柱で街区の表示を見つけた古美門 その町の名前をつぶやきながらケータイを取り出す その待ち受け画面は圏外の表示である

相続人資格69

古美門は言いました すいません 少し質問していいですか 服部は言いました どうぞ ご遠慮なく 古美門は言いました 服部さんは古美門清蔵という男が 例え自らの過去がさらけだすことになっても あかの他人のために法廷に立つ人間だと思われますか 服部は言いました これは難しい質問ですね わたしごときが答えていいかどうか 古美門は言いました 忌憚なくご意見を拝聴したいです 服部は言いました それではご遠慮なく 古美門清蔵先生は真実をあきらかにするためなら 例えいかなる法廷でも出廷する そういうかたです 古美門は言いました ハハハ 服部さんは清蔵という男を買い被りかぶりすぎてるんじゃないでしょうか 服部は言いました お言葉を返すようですが古美門先生こそ大先生を見損なってるのではないですか 古美門は言いました そうですか それほどおっしゃるなら 私が古美門清蔵の本性を法廷でひん剥いて化けの皮をはがしておみせします 服部はいきなり後部座席に振り向いた いくら先生でも言っていいことと悪いことが 古美門は叫んだ 服部さん 前々 驚いて服部が振り向いた時は遅かった 前の大型トラックが急ブレーキをかけたのだ しかし衝突する瞬間服部は大きくハンドルを切った 車体は横に跳ね上がり首都高速の擁壁をウイリー走行で走りトラックの前に出て車線に戻った 古美門は思わず声を上げた 戦後 プリンス自動車に一人の天才テストドライバーが存在した 好んで真っ黒な車を選んで乗ることから誰が読んだか そのあだ名は かっ その時服部が歌った カラス なぜなくのカラスの勝手でしょう

相続人の資格70

一方こちらは京極法律事務所 小鳥遊が青島に聞いた あれ元教授もう帰ったの 青島は言った なんか法務局へ行くって行ってました  小鳥遊は言った こんな時間に 青島が言った なんか延長時間にやってくれる支局があるらしんです 小鳥遊が言った でもどうやって調べるつもりなんだろうこの人を 青島は言った えっ無理なんですか 小鳥遊は言った 当時者以外に疎明資料見せてくれないし 第一これについては添付書類で疎明してないのよ 契約の内容だから 青島は言った じゃあどうやって調べるんですか 電話帳で拾うんですか 同性同名ものすごくありそうですよこの人 小鳥遊は言った それは最後の手段ね といっても家族に隠していたみたいだから 次郎たちに聞き込みできないしね 肝心の奥さんはどこにいるかわからないし そうね 小鳥遊は時計を見た 小鳥遊は言った ポチちょっと出るからついてきな 青島は言った え こんな時間にどこへ 小鳥遊は言った いいからついてきな 私の勘が正しければいろんな事がわかるかも

相続人の資格71

ここは都内の某図書館の新聞資料室  検索パソコンの前に座る小鳥遊 傍らに青島がいる 翔子は何やらパソコンにキーワードを打ち込んでいるが満足する表示が出ない 突然翔子は検索ウインドウに柴義雄と打ったあと頭に弁護人と加えた 青島がおどろいて聞いた えっ次郎さんのお父さん弁護人って 弁護士だったんですか 翔子は言った それがこれからわかるのよ 根拠はあるのよ 青島は言った 根拠ですか 翔子は言った あの根抵当権の設定の仕方よ 本来無限責任で人的保証である身元保証を有限責任の物上保証である根抵当権にさしかえる これは保証委託契約に精通しなければできない これだけの法律スキルをもっているのは金融のエキスパートか 司法書士以上の法律実務家 だからためしに弁護人を入れて見たわけ 翔子は続いて女性名前を入れた その名前は義雄の愛人疑惑のある根抵当権の内容となる女性の名前だ  そして翔子は言った さあ何が出てくるか ポンと 決定ボタンを押すとモニターには一つの大きな新聞記事が映った その記事の見出しは 天南門病院医療裁判だった その時館内にホタルの光が流れた 翔子は言った ポチ帰るよ 青島は言った えっ読まなくていいんですか 未だ時間ありますよ 青島は時計を見た 翔子は言った 見出しだけメモっときな キーワードさえわかればパソコンで調べればいいから

相続人の資格72

京極法律事務所のパソコンを作動しようとする翔子  その横で青島がモニターをのぞき込む 突然ドアが開き京極が入って来る 遅くなりました管理人さん 翔子はからかった 元教授 なにかおわかりになりまして?女性の居所とか法務局で調べられましたか 京極は言った なんでこんな大事な部分に疎明資料を添付しないんですか 小鳥遊は言った 海のものともやまのものともわからない契約でも 共同申請主義というルールで担保されてる場合登記できちゃうのよ我が国は 教授たちが机上で空理空論をたたかわしている間に法律実務はどんどんいいかげんに薄汚くなっていってるの 青島は言った しかしその泥沼に教授を引きずりこんだのは他ならぬ管理人さんじゃないですか 翔子は言った 嫌な事突っ込むわねポチの分際で だから彼女もできないのよ 青島は言った それとこれとは 翔子は言った 女はね 誰だって矛盾した発言をするのよ それをいちいち指摘する男を女は包容力のない了見の狭い男と思うのよ 青島は言った じゃあ女性の言う包容力のある男とは自分の矛盾した行動を非難しない男の事なんですか 翔子は言った その通りよ 今頃わかった? だからあんたには彼女がいないの 青島は上を見て何か思い出していた
ページの先頭へ